【ピアノ工場編#1】「野球部が欲しいらしい」で、就職先が決まった (Saskatchewan)

【ピアノ工場編#1】「野球部が欲しいらしい」で、就職先が決まった (Saskatchewan)

06 Aug
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結代かずみ|ミドルエイジクライシスからの人生次章設計『NEXT CHAPTER』プログラム
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Saskatchewan

06 Aug

結代かずみ|ミドルエイジクライシスからの人生次章設計『NEXT CHAPTER』プログラム

Saskatchewan

いまの仕事、自分の意思で選びましたか。 僕は選んでいません。18歳の春、就職先は先生のひと言で決まりました。その会社が何を作っているのかも、知らないままです。 現場で働きながら「これ、自分で決めたんだったかな」と思ったことがあるなら、たぶん入り口は似ています。 「つまんないな」で終わった就職活動 工業高校の電子機械科にいました。 行きたかったのは、重工業や自動車の会社です。名前を知っている大きなメーカーで、機械を相手にするつもりでいました。子どもの頃から、そのつもりでした。 でも、求人が来ませんでした。 第一志望も、その次も、その次も、その年は募集がない。担任から順番に「今年はないぞ」と言われて、志望先の欄が消えていきました。 そのとき思ったのは、悔しいでも焦りでもなく、「つまんないな」でした。 18歳の語彙です。でも、いま思い出しても、これ以上の言葉が出てきません。選択肢が減っていくのを、他人事みたいに眺めていました。 進路指導室で、先生がぽつりと言います。 「ここ、野球部が欲しいらしいぞ」 野球は小学1年から続けていました。高校では投手で4番を打って、3年間で本塁打が19本。就職活動で使える材料が、それしかなかったとも言えます。 紹介されたのは、大手の楽器メーカーでした。 正直に書きます。会社名を聞いても、何を作っている会社なのか分かりませんでした。楽器の会社だと説明されても、自分の生活とつながらない。ピアノなんて、触ったこともない。 「大手やし、まあええか」 それが、就職先を決めたときの、いちばん正直な気持ちです。 全国から50人が集まった寮 2017年4月に入社しました。 最初は寮に入って、新入社員研修です。同期は50人くらい。高卒だけじゃなく、大卒の人も、中途で入ってきた人も、音楽の専門学校を出た人もいました。全国から集まっていました。 これが、思っていたより楽しかった。 座学で座らされるだけかと身構えていたら、手を動かすワークがいくつも用意されていました。夜は寮で宴会です。地元も年齢も学歴もバラバラの人間が、同じ部屋で飲んでいる。 18歳には、それが新鮮でした。 初任給は手取りで145,600円。配属が決まってから借りたアパートは、家賃36,000円。工場までは30分。 暮らしは、それで回りました。将来のことは、正直、何も考えていません。 木は、1mm動く 配属されたのは、グランドピアノの仕上げをする課でした。 棚板を削り出して、ペダルとダンパーを取り付けて、鍵盤を調整する。静岡の工場で、1日に数十台を触ります。長い工程のなかで、いくつもの組み付けと加工を受け持ちました。 現場に出て最初に受けた衝撃は、木でした。 学校で叩き込まれたのは金属加工です。0.01mmの誤差も許されない世界で、3年間習ってきました。図面の数字と現物は一致する。そういうものだと思っていました。 木は、1mm平気でズレます。 同じ図面で、同じ工程で進めても、材料のほうが違う。湿気で動くし、個体でも違う。数字を信じたまま手を出すと、合いません。 これは、当時の自分にはうまく処理できませんでした。 「合わせにいく」を、手で覚えた やったことは単純です。 先に材料を見て、それから手を変えました。図面どおりには来ない前提で、目の前の1台に合わせる。それを1日に数十台、繰り返しました。 うまくなった実感はありません。ただ、「ズレている」と気づくまでの時間が、少しずつ短くなりました。 興味を持って入った仕事ではありません。ピアノを好きになったわけでもない。それでも、手だけは動くようになっていきました。 今になって分かること いま、製造業でシステムを作る仕事をしています。 その現場で何度も思い出すのが、この1mmです。 仕様どおりのデータは、まず来ません。同じ帳票でも、書く人によって中身が変わる。現場は図面のとおりには動かない。そこで「現場が悪い」と片づけてしまうと、何も進まなくなります。 材料を見てから手を変える。あのときやっていたのは、それでした。 18歳の自分は、興味のない会社で、ただ手を動かしていただけです。それでも身体で覚えたものは、9年経っても消えていませんでした。 いま現場にいて、その仕事に意味を感じられていないとしても、たぶん同じです。手が覚えたものには、後から名前がつきます。 次回 次回は、この工場で初めて知った「品質を守る仕事」の話を書きます。 この記事は連載「#現場からDX独立まで」の1本です。 高卒でピアノ工場の技能工から始まり、陸上自衛隊、SES、中小製造業の一人DX担当を経て、2026年9月にフリーランスとして独立します。その道のりを、最初から順番に書いていきます。 連載の全体像は入口記事にまとめました。続きはマガジンに追加していくので、フォローしてもらえると週2回の更新が届きます。

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